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事例|SBSリコーロジスティクス株式会社 ~オープン系スタンダードに統一し、IBM iの若手技術者を育成

「ITC人財ポートフォリオ」「スキル定義」「教育サイクル」を柱に独自のITスキル標準を策定

SBSリコーロジスティクス株式会社

本社:東京都墨田区
設立:1964年
資本金:4億4800万円
売上高:連結 719億円、 単体 667億円(2020年12月)
従業員数:連結 3619名、 単体 1787名(2020年12月)
事業内容:一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、コンピュータ・事務用機器類およびその消耗品の回収・リサイクル、倉庫業および保税上屋業などの各事業を展開
https://www.sbs-ricohlogistics.co.jp/

精密機器メーカーの物流企業として発足し、国内はもとより欧米やアジアなどグローバル市場を対象にしたサプライチェーン管理を担ってきた。複写機など精密機器の組み立て生産に必要な各種電子部品の調達物流をはじめ、工場内での生産物流、完成品を各工場や物流センターから販売会社や取引先に供給する販売物流、そして使用済みの機器や消耗品を回収してリサイクルを施す静脈物流までをトータルにカバーしている。2018年8月、SBSグループの一員となり、国内・海外の物流ネットワークをさらに強化している。

◎IT人員構成
情報システムセンター:23名
20代:12名
30代:7名
40代:3名
50代:1名

若手技術者の育成に注力し
年齢バランスのよい人員体制を確立

大手精密機器メーカーの物流企業であった同社は2018年8月、主要株主がSBSホールディングス(株)へ変更され、物流専業のエキスパートであるSBSグループの一員となった。

現在は2022年3月を目標に、ネットワークなどのインフラ環境を旧主要株主のグループ環境から完全移行するためのプロジェクトが進行中。完了させた以降、同社の経営企画本部情報システムセンターはSBSグループ全体のIT企画・開発・運用に対しても役割を担うことになる。

情報システムセンターに所属するのは合計23名。同センターは、デジタル推進部とシステム管理部の2つで構成される。デジタル推進部(ソリューション1課、ソリューション2課、セキュリティ推進課という3つの課がある)では主にITの戦略立案、AIやIoTなど最新技術の活用、セキュリティ管理などを中心にプロジェクト型のシステム構築を担当する。一方、システム管理部はIBM i上の基幹システムの運用・保守開発を担っており、運用課と保守開発課の2つに分かれる。

人員構成は20代が12名、30代が7名、40代が3名、50代が1名で、バランスのよいピラミッド構造が形成されている。毎年2名程度の新卒社員が配属されており、半数以上が20〜30代の若手である(数年前に他部署への人員配置が優先され、新卒社員の配属がなかったときだけ、例外的にキャリア採用を実施した)。

同社が若手のIT人員育成に積極的な理由を、清水健一氏(経営企画本部 情報システムセンター デジタル推進部長 兼 システム管理部長)は次のように語る。

「2013年ごろにIBM i上での大規模なシステム開発プロジェクトが立ち上がり、外部ベンダーからIBM iのスキルをもつ相当数の技術者を集める必要が生じました。ところがまったく人材が集まらず、外部にIBM iの開発リソースを期待できないことに大きな危機感を覚えました。今後、IBM iの開発・運用を継続していくうえで、外部に期待できないとなれば、自社で育成していくしかないと決心しました」

清水 健一氏
経営企画本部
情報システムセンター
デジタル推進部長 兼 システム管理部長

その後、同社では「ITC人財ポートフォリオ」「スキル定義」「教育サイクル」を柱とする独自のITスキル標準を策定し、人材育成に取り組んできた。

ポートフォリオではManager(IT組織マネジメント)、Leaders(IT部門リーダー)、Operators(ITオペレーター)、Subject Matter Experts(ITエキスパート)の4つのモデルを設定し、それぞれのスタッフが自ら目指すべき人材像を決定する。

スキル定義は「ITスキル」「業務スキル」「データサイエンススキル」の3つがあり、各自の目標設定に活用する。

さらにITスキルはRPG Ⅳを前提とする「コーディング技術」をはじめ、「システム設計」「プラットフォーム設計」「運用管理」「プロジェクト管理」の5つのカテゴリで、それぞれにレベル1〜4(もしくは1〜5)が設定されている。これらに対して、半期ごとにスキル評価が実施される。

新卒社員は配属後に、同社が画面作成に使用している「Biz/Browzer」の操作習得、IBM iの基礎および開発環境の理解、RPG Ⅳでの開発と開発パターンの学習、それに帳票作成ツールの操作トレーニングに約3〜4カ月を費やしたのちに、OJTに入る。

同センターに配属される新卒社員はほとんどの場合、ITの教育経験は一切ないが、それでも半年後には開発の戦力になるという。

ちなみに新人教育に関する清水氏の方針は、「昨年の新人が指導し、その先輩が監督役を務めること」である。

「卒業したての20代の新入社員を50代のベテランが教えると、経験、環境、考え方や発想の何もかもが違いすぎて、せっかくの能力を伸ばせないと感じています。ほぼ同世代、どんなに開いていても5年程度上の先輩が新人を指導するのが適切かと思います」(清水氏)

同センターから業務部門への異動はあまりないが、センター内では平均2〜3年程度で課を異動する。

「新規システムの構築が立ち上がった場合、システムの運用経験がないと、本稼働後に効率的に運用し、継続できるシステムの在り方を発想できず、システム提案に反映できません。また実際にプログラムを作成するスキルがないと、見積もりの評価やプロジェクトの管理を的確に遂行できません。そのため当社では、さまざまな経験を積めるように職務ローテーションを意識しています」(清水氏)

オープン系のスタンダードに
IBM i環境を接近させる

システム管理部保守開発課に属する大西道人氏と福崎泰志氏はどちらも、コーディング技術のスキルが最高レベルの4と評価されており、RPG開発のリーダー的存在である。2人は自らの経験を踏まえたうえで、以下のように指摘する。

「IBM iの開発スキルを身に付けるうえで、最もハードルとなるのは5250エミュレータです。まったく馴染みのない環境と感じるようで、それはITスキルをもたない新入社員の場合も、IBM iの開発経験のない外部ベンダーの技術者の場合も、変わらないように思います」(大西氏)

大西 道人氏
経営企画本部
情報システムセンター
システム管理部 保守開発課

そこで同社では、5250エミュレータでの開発を廃止し、Eclipseベースの統合開発環境である「IBM Rational Developer for i」(RDi)を採用している。このほか開発言語はフリーフォームRPG、データベース操作はSQL、バージョン管理システムにはオープンソースのSubversionなど、IBM iの開発環境をオープン系のスタンダードに限りなく近づけていくことで、IBM i固有技術という壁を乗り越えようとしている。

「当社は内製主義を標榜しているものの、開発規模が大きい場合など、実際には外部ベンダーの手を借りることも多いです。その場合、たとえIBM iの開発経験がない技術者であっても、当社で学んでもらえばいいからと、開発人員を受け入れています。実際に1カ月ほど常駐して一緒にプロジェクトに参加すれば、IBM iでの開発は問題なく進められるようになります」(福崎氏)

福崎 泰志氏
経営企画本部
情報システムセンター
システム管理部 保守開発課

物流業務を背景にしたグループ全体のDXを目指して、同センターでは今後も、人材育成に積極的に取り組んでいくようだ。

 

[i Magazine 2021 Spring(2021年4月)掲載]